にーはお!2015年に続き、2016年の中国スタートアップの振り返りです。企業単位で2016年を振り返りながら、2017年の注目ポイントも簡単に述べています。

目次
- 日本から見た中国スタートアップ
- 信頼を展開する阿里巴巴(アリババ)
- スマホそのものになりたい腾讯(テンセント)
- 2017年のV字復活に期待の小米(シャオミ)
- 自動運転で一発逆転を目指す百度(バイドゥ)
- ライブストリーミング元年
- 中国からコンビニがなくなる日
日本から見た中国スタートアップ
日本から中国のスタートアップがどう見えているか?という視点でまずは総括してみる。
NewsPicksが積極的に中国インターネット関連の企画を出したことで、意識高いビジネスマン層の目にも中国インターネットを解説する記事が届くようになった。中国インターネットの先進性が広く知れ渡るようになったのは、NewsPicksの普及のタイミングと重なると思う。
特にWeChatやAlipayなど中国モバイル決済には注目が集まり、NewsPicks層やスタートアップ界隈の人の中では、中国のインターネットは日本より進んでいるという認識が確実になった1年ではないだろうか。
某大手新聞社から、中国現地で活躍する起業家に繋いでほしいと連絡があったり、旧メディアも中国のインターネット事情を報道しようと精を出している。
そういう意味で、2016年は日本人にとっての中国スタートアップ元年かもしれない。(2015年時点でそうだったとも言えるが。)
オフラインの日中のスタートアップ間の交流に目を向けると、上海でコワーキング・スペースを構えるXNodeがSlushAsiaなどを通じて日中間の交流に一役買った。
2017年も日中(アジア)間での投資やスタートアップ人材の交流はより促進されるだろう。
では、企業単位で2016年の中国スタートアップを振り返ってみる。
集約した信頼を展開する阿里巴巴(アリババ)
まずは、阿里巴巴(アリババ)。今年も多額の投資を実行し、新たなサービスを展開した。
阿里巴巴(アリババ)傘下の金融グループのAnt FinancialはUS$4.5Bを調達し、物流サービスを手がけるCainiaoもUS$1.44Bを調達した。Ant Financialは上場が噂され、時価総額は7兆円を越えるとも言われている。
そしてECでの話題もかっさらっていった。
おなじみの11/11の流通総額は約1兆8千億円にもなった。1日でAmazon日本の2015年の年間流通総額を上回ったことになる。
ここで、EC、金融、物流とあらゆるサービスを展開する阿里巴巴(アリババ)の核とはなにかを考えたい。
ジャック・マーの理念は中小企業がビジネスをやりやすくすることだ。中小企業がビジネスをやりやすくするにはどうすればいいか?その答えの1つが信頼の獲得だろう。
従来はマスへの認知度や資産でしか信頼を獲得できなかったが、インターネットの出現により全ての取引が可視化され、信頼も可視化されるようになった。
理念を達成することから逆算すると、事業の本質は阿里巴巴(アリババ)のサービスに信頼を集約し、それを活用して、様々な取引を生み出し活性させることにあると思う。
近年、阿里巴巴(アリババ)は銀行業などインターネットと一見無関係な事業に積極的に進出しているように見えるが、一貫しているのは獲得した信用の活用と言える。
2016年もその動きが顕著だった。
C2Cのモノのマーケットプレイスである「闲鱼(Xianyu)」を展開し、さらに位置情報をベースにしたコトのマーケットプレイス「到位(Daowei)」をAlipayのアップデートに組み込んだ。
到位(Daowei)は日本で言うと、アッテのようなサービスである。
マッサージ、美容などのサービスが、位置情報ベースで直感的に探せるようになっている。(このあたりのUIも非常に参考になる。)
個人間のマーケットプレイスの難しさの1つに、取引ユーザーの信用性の担保があるが、阿里巴巴(アリババ)は創業時よりずっと培ってきた信頼をうまく活用している。
2017年以降も、阿里巴巴(アリババ)は集約した信頼を使って、インターネットにとどまらず、銀行、証券など取引が発生するありとあらゆるビジネスに参入するはずだ。
引き続き、信頼をビジネスに変えていく阿里巴巴(アリババ)の動きに注目したい。
プラットフォームではなく、スマホそのものになりたい腾讯(テンセント)
WeChatも国民のライフスタイルに欠かせないものになっている。
2016年、腾讯(テンセント)には動かなかったことと、動いたことがあった。それらを見ることで、腾讯(テンセント)が目指すものを考えてみる。
まず、動かなかったのはタイムラインだ。
WeChatのタイムラインを使っている人は分かると思うが、FBのように日々多くの投稿がされている。しかし、非常にクローズドな空間でもある。広告は少なく、タイムラインに投稿された記事をシェアする機能もない。
世界的には分散型メディアが既存のプラットフォームを使って急成長しているが、WeChatではそのような使われ方はあまりされていない。
Facebookが開放に向かっていく一方、WeChatは2016年も依然閉じたままで、大きな変化はなかった。プラットフォームになるような動きではなかったと言える。(※ここで言うプラットフォームは、人が集まる空間を作り、広告で収益をあげるビジネスを展開している事業者という意味で使っている。Facebook、Twitterなど。)
一方で大きく動いたことがあった。それは2016年の初めに発表された、MiniAppsという新たな構想だ。
MiniAppsは「WeChat 内のアプリの中のアプリ」である。WeChat内で使うインストール不要の使い捨てアプリだ。まだ詳しいことはわかっていないが、2017年には正式ローンチされる。
開発を現在のアプリよりも簡単に行え、アプリはWeChat内に存在するのでデバイス間の相互互換性を考える必要がなくなる。というデペロッパーへのメリットがある。
そして、ユーザーはWeChat以外のアプリを既存のストアからインストールしなくてもよくなる。ユーザーはWeChatを通じて、MiniAppsを探すようになる。
チャット、タイムラインへの投稿、ニュース購読、決済、タクシー予約、レストラン探し、買い物など日常的な行動はWeChatの既存の機能もしくは、WeChat内のブラウザで動くアプリから行い、他のアプリ(非日常的)はMiniAppsを使うようになるだろう。
WeChatがあらゆるアプリの「入り口」になる。いや、WeChatはスマホそのものになろうとしていると表現したほうが適切だろうか。Alipayからはこれに対抗するような発表が今の所ないことを踏まえると、Alipayにはなく、WeChatだけが持っている世界観と言っていい。
では、WeChatの運命を握るのは誰か?それはメールソフトFoxmailの創業者(テンセントに売却済)で、WeChatのプロダクト・マネージャーである张小龙氏だ。
WeChatの生みの親と言われる彼が、WeChatをどのようなプロダクトにしていくのかが2017年の注目すべきポイントだろう。
2016年は小米(シャオミ)の失速とOPPOの躍進。2017年は小米(シャオミ)のV字復活に期待。
小米(シャオミ)は2016年1月の発表で、2015年の販売台数が7000万台になったと発表。2015年5月には2015年の販売目標を1億台に置いていたことを考えると、かなりの未達だった。
それも無理はない。2015年の中国のスマホ市場は前年比わずか1.2%だったからだ。
そして約半年後に発表された2016年(7~9月期)における中国スマホ販売台数のシェア。2015年時点でシェア9.9%で4位だったOPPOが第1位にのし上がり、シェアも16%まで拡大した。一方、Xiaomiは10.6%までシェアを落とし、順位も4位まで転落した。
オンラインでのマーケティングに特化したXiaomiとは全く違ったマーケティングを実行したのが、OPPOだった。地方都市の零細小売店に出荷し、オフラインをひたすら攻めた。OPPOを扱う代理店は全国で20万とも言われる。
中国でのスタバが2300店舗であることを考えると、代理店の多さが分かる。
小米(シャオミ)の武器が洗練されたプロダクトとオンラインに特化したマーケティングで勝ち上がったなら、OPPOは洗練されたプロダクトとオフラインに特化したマーケティングで勝ち上がったと言える。
スマホでの成長が見込めなくなった小米(シャオミ)はMUJIを目指すと宣言しており、家電や家具など別の事業領域に進出している。日本では小米(シャオミ)は終わったとの声を聞くが、小米(シャオミ)の強さは、風が吹けば豚でも飛べる市場を探すことと、ソフトウェア企業として培ってきたUXだ。
「多少お金を払ってもこだわりのあるものを買いたいと思う群」(日本だとプレミアム消費と言われる)に対して、スマホで勝負し、次は家電や家具で勝負する。
本家のMUJIの中国事業の当期純利益は推定40億円で、出店ペースを加速させていることからも大きな市場であることが期待できる。
2017年はMUJIの社長が「ライバルは小米(シャオミ)」とインタビューで答えているだろう。小米(シャオミ)がどこまで、家電や家具市場に食い込んでいるかに注目したい。
百度(バイドゥ)に一発逆転はあるか?
モバイル化の波に未だ遅れる百度(バイドゥ)。中国三大インターネット企業BATと呼称するには、ATに随分差を空けられてしまった。
投資したUberは腾讯(テンセント)と阿里巴巴(アリババ)が出資する滴滴(Didi)に買収され、自前のフードデリバリーサービスも、美团(Meituan)と大众点评(Dianping)の大型合併の前にくすむ。
WeChatPaymentが認知度を高めていく中、百度(バイドゥ)の決済サービスはほとんど使われていない。
オンライン広告売り上げも順調とは言えない。阿里巴巴(アリババ)に抜かれ、シェアを2位まで落としている。
そんな百度(バイドゥ)が期待を寄せるのが、自動運転だ。
自動運転実用化をいち早く実現すれば、新たな広告空間を生み出し、莫大な売り上げをbaiduにもたらす。買い物を阿里巴巴(アリババ)が、ソーシャルをWeChatが握っているが、人々の生活の中心である交通手段を握れば両者に対抗できるプラットフォームを手に入れることができる。
しかし、一部の報道にあるように、自動運転事業がうまくいっていないとの噂もあり、百度(バイドゥ)にとっては辛い1年だった。
百度(バイドゥ)がBATに返り咲くには、自動運転の早期実現しかない。
自動車業界との連携、人口知能研究者の獲得をどこまで進められるかが、2017年の百度(バイドゥ)の見どころだろう。
ライブストリーミング元年
中国では、多数のライブストリーミング配信アプリが生まれた。多くの中国メディアがライブストリーミング元年と報道している。
微博(ウェイボ)などのSNSにライブストリーミング機能はもちろん追加されたが、それだけに留まらず動画をベースにしたECアプリも多数生まれた。よりリアルタイムで、直感的なインターフェースを提供するアプリが増えることは間違いない。
また、プラットフォーム上で网红(Wanghong)というネットスター(日本で言うYoutuber)も出現した。最も有名なPapi醤は自身の広告枠をオークションで3.7億円で売ってしまうほどだ。
网红(Wanghong)への課金のサービス設計を、日本で生配信事業を手がけるShowroomが中国のサービスを参考にしているなど、日本のスタートアップが、中国アプリのサービス設計やデザインを参考にすることは、今後も増えていくだろう。
市場が大きく、巨額の投資を行えるVCが多数いる中国では、同じビジネスモデルのアプリが同時に立ち上がる。そうなると、UXやUIでの差別化へのインセンティブはより強くなり、日本のスタートアップが参考にしたくなる事例が生まれているのではないだろうか。
中国からコンビニがなくなる日
2016年12月にはセブンイレブンも、フードデリバリーの美团(Meituan)に出店した。
日本のスタートアップの妨げると言われる?ほどの便利なセブン・イレブンも中国ではオンラインの波に完全に飲まれていることを表す事例だった。現地でベンチャー投資をする方に伺ったが、すでにコンビニ各社はフード・デリバリーで出店をしている。
美团(Meituan)の競合である饿了么(Eleme)は$1.25Bの資本を調達し、資本による殴り合いはまだまだ続くようだ。
2017年は、セブンイレブンをはじめとするコンビニがフード・デリバリーとどう戦うかに注目したい。日本では自前でオンライン・ショップを展開しているが、中国では違った展開になるはずだ。
日本のようにドミナント戦略を推進するよりも、パンや弁当の美味しさの強化が、フード・デリバリーの差別化になる。(一消費者としてもそう願っている。)
こればかりは、現地に行って食べないと分からない。2017年中国を訪問する良い口実ができた。
まとめにかえて
他にも、中国のスタートアップで多くの出来事がありました。2017年も中国スタートアップ・シーンを眺めるのを楽しみたいと思います。
- 医療系スタートアップのCEOである张锐氏が、過労死。
- ネット上の嘘の医療情報を信じた大学生が死亡。(魏则西事件)
- シェア自転車の急速な普及
- AlipayとWeChatPaymentが多くの日本事業者と提携
- 「君の名は。」が中国で大ヒット
- インターネットサービスの実名制の強化
- 滴滴(Didi)がUberChinaを買収。
個人的な2016年はあまりのこのブログが更新できなく残念でした。来年はもう少し更新頑張ります。
※中国のソーシャルや動画周りの詳しい記事は『【解説付き】中国ソーシャルメディア業界図2016』を参考に。
※参考にした記事
『DoNews2016年十大事件盘点:这一年我们经历了什么?』
『The 10 largest investments in China this year』
『2016年中国互联网的十大变局』